公益財団法人パル井上財団は、全国の服飾専門大学および専門学校の学生たちが接客を競うロールプレイングコンテスト「PAL FOUNDATION CUP 2023」を2023年10月20日に東京・日比谷イイノホールにて開催した。
パルグループの創業者一族である井上ファミリーにより2013年に設立されたパル井上財団では、総合大学および服飾系大学・短大・専門学校などに通う、経済的な理由により修学が困難とみられる日本人学生および外国人留学生に対し、給付型奨学金を付与するなど、将来のアパレル産業や関連する分野に貢献し得る人材を育成することを目的としている。その一環として、18年から「PAL FOUNDATION CUP(以下、PFC)」を開催するようになった。
現役販売員に引けを取らない学生たちの接客力
今年は、全国から22校42名の学生がエントリー。東日本エリアと西日本エリアで予選会が行われ、10校10名の学生が決勝大会に進出した。昨年の決勝大会は出場者と一部学校の学生のみが来場を許されていたが、今年は遠方の学校からも応援に駆け付け、競技前の応援動画だけではなく、現地での応援合戦も繰り広げられたりと大いに盛り上がった。

決勝に進んだ学生たちの実力も少しずつレベルアップし、すぐにでも店頭で活躍できるくらいの接客を披露。10名の中からプラチナ賞1名、ゴールド賞1名、シルバー賞2名が選ばれた。今年は上位4名のうち、3名が東京・名古屋・大阪のモード学園の学生が占める結果に。同校が接客の授業に力を入れていることがうかがえた。
プラチナ賞の酒井梨緒さん(大阪モード学園)は、丁寧なヒアリングから得た情報を基に、お客様の要望も聞きつつ、おすすめした服を着たときのシーンが目に浮かぶような表現力豊かな会話ができたことで高い評価を得た。ゴールド賞の宮木祐佳さん(名古屋モード学園)は、お客さまの気持ちに寄り添った楽しい接客を披露。シルバー賞の一ノ瀬日向さん(織田ファッション専門学校)は、品揃えに合った高感度な提案をし、それにふさわしい納得できる接客が評価された。シルバー賞の藤井沙耶さん(東京モード学園)は、大学卒業時にコロナ禍だったことから就職を断念し、モード学園でさらにファッションビジネスや接客について学んできた。他の学生たちよりも落ち着きのある立ち居振る舞いで、すぐにでも店頭で活躍できそうな安定感のある接客を見せた。

ファッションビジネスを学ぶ学生のためのコンテスト開催に期待
PFCの審査は、「顧客ニーズの把握と対応力、提案力」「個性・魅力」「接客力」の3項目に分かれており、中でも「顧客ニーズの把握と対応力、提案力」が重視されている。メーカーやデベロッパーが主催する現役販売員がチャレンジするロープレコンテストと引けを取らない審査項目になっている。
全国的に見ると服飾専門学校は淘汰され、数が少なくなってきている一方で、業界的には学生たちにものづくりだけでなく、ファッションビジネスも学んでもらいたいという思いが高まっているように感じる。また、学校側もそれに応えるように、校内に仮想店舗を作り、リアルに近い環境で接客やショップ運営について学べる体制づくりに取り組むところが増えてきている。

かつては、ファッションを学ぶ学生たちが参加できるコンテストといえば、主にデザイナーを目指す学生に向けた内容しかなかったが、同財団がファッションビジネス学科の学生に光を当てすべくPFCを創設した。
これにより、少しでもファッションを学んでみたいと思う学生が増え、業界内外で販売職の地位や価値の向上につながることを期待したい。