「販売員を応援する」をテーマに、販売員時代の思い出や現役販売員へ向けたアドバイスを先輩たちに伺う、このシリーズ。
6人目は、2000年代前半にSWEET系ブランド、ギャル系ブランドで販売員・エリアマネジャーを経験し、現在は店舗コンサルタントとして活躍するウィルソート株式会社の海藤美也子代表が登場。販売員時代の経験はさまざまな業種で役立つと力強く語る海藤さんのキャリアストーリーや、すぐに役立つ接客術を伝授していただきました。
海藤美也子(かいどうみやこ)
ウィルソート株式会社 代表取締役、代表コンサルタント
短大卒業後、株式会社ジェーシービー入社。大企業ではやりがいを感じられず、友人の影響でアパレル業界へ。当時、人気を博したブランドでやりがいを見い出し、トップクラスの成績を残してヘッドハンティングで転職したものの、再び挫折を経験。あらためて接客、店舗運営を学び直し、自身がマネジメントした店舗が伸長率で社内表彰1位を獲得。その後、販売代行会社へ転職し、研修講師としてのキャリアを積み、2013年に独立。現在はアパレル以外に、高速道路のSA運営企業や高級はちみつ専門店、アクセサリーパーツ専門店などでも研修をおこなう。
―2024年10月に開催した海藤さん主催のトークイベントにお招きいただき、ありがとうございました。会話を通して海藤さんの根っこにある熱い“ギャルマインド”を感じました。かつてギャルブランドで販売員をされていたと聞いて驚いたのですが、これまでの経緯を教えてください。
キャリアのスタートはクレジットカード会社の法人営業です。どちらかといえば問題のある社員だったので、2年目には調査部という債権回収をおこなう部門へ異動になりました。簡単にいうと、返済が滞っているお客さまにご連絡する部署で、派遣社員の一次架電で話がまとまらなかった場合に交代し、対応をすることが私の仕事でした。
そのほか、派遣社員の育成研修、モニタリング評価なども私の業務で、3年目には同じ部門の係数担当を任され、データベースとにらめっこする毎日になってから「このまま大企業の歯車でいいのか」と考えるようになり退職を決めました。
当時、プライベートでの友人がアパレル業界に勤めていて、彼女が毎日好きなファッションに身を包み働いているのが楽しそうだったので、当時、原宿に1店舗しか展開していなかった「rich」に入り、販売員のキャリアをスタートしました。
―その当時の「rich」「blondy」「cher」といえば、SWEET系三大ブランドで大人気でしたよね!
そうなんです!ディレクター同士が仲良かったので、ショップスタッフ同士もお互いのブランドで買い物するくらい交流がありました。
初めて販売職に就いて感じたのは「販売は難しい」ということです。とにかく、ここで一花咲かせようと思っていたので、まずは先輩や売れている後輩の接客を見て、真似して、学びました。2年目には経験が浅いにもかかわらず店長になり、勤務していたファッションビルで、セール初日のフロア売上記録を塗り替えたことは良い思い出です。

―それは快挙ですね!
そうなんですが、そのあとヘッドハンティングでギャル系ブランドを複数展開していたアパレルメーカーへ転職して、それまでの経験が全く使いものにならなかったことに気が付くんです。
接客を一から学び直し、自分のセオリーを身につける
―何があったのでしょう?
「rich」は人気ブランドでしたので、接客の力ではなくブランド力で売れていたんですね。そのことを私は全くわかっていなかった。
転職先のギャル系ブランドは知名度がそこまでなく、接客が重要でした。しかも、マネジャーとして入社したのですが、店長たちとの関係構築に失敗してしまい、「あなたはうちのブランドらしくもないし、ブランドの何を知っているの?」と詰め寄られました。
猛反省して、店長やスタッフと意見交換の機会を持ち、あらためて人間関係を構築することから始めました。すると、担当エリアの店舗が社内表彰で売上伸長率全国1位に表彰されるまでになり、このときはすごく誇らしかったですね。
―大きな壁を乗り越えられたんですね。
有名なブランドは人気があるからスタッフもすぐに採用できるし、ブランドが好きで応募する人がほとんどなので、特にマネジメントしなくてもスタッフは育ちます。けれども一般的なブランドはアパレル未経験の人も多いので、ゼロから育てていく必要があります。
未経験のスタッフたちを育成するにあたり、「自分の接客はどうだろう?」と振り返る機会を得て、もっと接客スキルを身につけなければと思いました。それから本や雑誌『ファッション販売』を読み、館が実施する研修はもちろん、外部の接客セミナーにも自費で参加して、接客スキルを磨いていきました。こうして学び直しをする中で、「接客スキルは後天的に身につけることができる」と確信したのです。
―気づきを得てから、変化はありましたか。
その後、ギャル系アパレルを退職し、先に退職していた先輩が立ち上げた販売代行会社に入社し、ギャル系ブランドの新規事業立ち上げに携わり、一から育てた店舗が、本部が運営するブランドの一番店と売上1位を競うまでに成長しました。スタッフ研修は私が作成したカリキュラムを基に実施しており。この経験はいまのキャリアへとつながっています。
また、本部所属のスタッフの研修担当をしていた外部講師とお会いすることができ、いろいろとお話しする中でその講師が「最近、スタッフとの年齢が離れてきて気持ちがわからなくなってきたから、若いあなたがやってみたら?」と後押しされたのです。販売代行と並行して研修講師の仕事を始めましたが、徐々にウエイトが増えてきて独立することに。
―現在では高速道路のSA(サービスエリア)で働くスタッフさんの研修もされているそうですね。
そうなんです。ご縁があってVMD研修を担当しています。アパレルは他業界と比べてVMDが特に進化しているので、その知見をお土産屋さんの陳列に落とし込むことで売上が上がっているそうです。

買い物は目でするものだから、接客は「動き」が重要
―接客スキルは後天的に身につけられるとのことですが、海藤さんは具体的にどんなことをされたのですか。
一言でいうと、片っ端から世に出ている接客のセオリーを触れにいきました。例えば、館が実施する接客研修はもちろん、外資系ブランドや航空会社出身の方が開催するセミナーなどにも参加して、、学んだことを店舗で実践したのです。
けれども、実践してみるとうまくいかなくことが意外と多く、たくさん研修を受けた中で一番刺さったのが「接客は言葉と動き」という言葉でした。それからというもの、売れている販売員の動きを注意深く観察し、どんな姿勢でいるのか、鏡に誘導するときにどう動き、どんなことを話しているのかを確認して、自分で真似してみると、これなら誰でも再現できるし教えやすいのではと感じる行動がいくつかありました。
書籍を読んで勉強する方は多いと思いますが、一般的に接客系の実用書はトーク術がメインであることがほとんど。接客にはさまざまなシチュエーションがあり、トーク術は意外と再現性に欠けますが、動きは誰でも再現が可能です。お箸の持ち方と同じで、トレーニングすればできるようになります。
―確かに、会話は属人的ですが、体の動かし方はトレーニングで身につけられそうですね。身をもって経験し、再現性の高い接客のセオリーを見つけ出し、研修のカリキュラムとして落とし込んだのですね。
そうですね。自分のセオリーを確立してからは自信が持てるようになりました。
マネジャーになっても接客に自信がなくて、販売職がつらいと感じた時期もあったんです。でも、この業界で爪痕を残したいと思っていたので、とにかくやれることをやろうと猛勉強したことが、いまにつながっています
自分のセオリーを見つけたおかげで、動いても売れないときは諦めるという気持ちの切り替えもできるようになりました。こういう一見実務とは関係ないと思えることも教えていきたいと思っています。真面目な販売員ほど、一生懸命接客して売れないと自信をなくしたり、涙を流したりすることもあります。売れないことで気を落とさないでほしいです!
―商品が売れるのには商品力も必要です。また、価格やニーズとも合致することが前提にあり、その上で接客という付加価値を付けることで満足いくお買い物につながるのですから、販売職は大変ですよね。
いくら手をつくしても購入にいたらないときは誰が接客しても売れないです。だから「気を落とさないで」と伝えたいです。それが私の仕事の原動力でもあります。

―カッコいいです!そこで一つ、このインタビューを読んだらすぐに実践できる接客術がありましたら教えてください。
早めに鏡の前に誘導することですね。研修で入る店舗でよく見られるのは、テーブル什器やラックの前で接客を始めるパターンです。商品が畳まれている状態で商品説明をしても、お客さまの心は動きません。その理由は、お買い物は“目”でするものだからです。
お客さまが着用したときのイメージが思い描きやすい状況、例えば商品を広げて見せる、鏡の前へ案内して当てて見せるなどしてから商品説明やコーディネート提案をしましょう。
―お客さまは目で買い物をする。確かにラックで商品説明されるより鏡の前で充ててみた状況で説明を受けたほうが気持ちも高まりそうです。
とにかく観察してオタクのように研究してきたので、そういうノウハウがたくさんありますよ(笑)。そういったことを伝えて、せっかくこの業界で働いているからこそ身につけられるスキルを皆さんに感じてほしいです。
―販売職は異業種でも使えるスキルを身につけられる仕事ですよね。では、最後に目標と販売員の方へメッセージをお願いします。
最近は“クライアントサクセス”を念頭に置き、企業支援をしています。これまで研修講師を務める中で、一つの研修だけではその場は盛り上がっても数日経てば元通りになることを感じていました。永続的に売れる組織をつくらないとクライアントサクセスにはならないと考え、いまは伴走型の研修プログラムに取組んでいます。伴走しながら組織の成長を促し、ゆくゆくは自走できるようになって、手を離れていくことを目指すものです。
もう一つは、販売員のキャリア支援を最近始めました。よく研修先の販売員から「海藤さんのようになるには、どうしたらいいですか」と相談されるので、現役販売員、販売員経験者の方が対象の販売コンサルタント養成講座を開講しました。私のようにコンサルタントを目指している方はもちろん、いま働いている企業の中でもっと活躍したい販売員の方、さらにステージを上げて活躍したい方も対象です。
販売職で培ってきたスキルは、必ずいろいろな場面で活かすことができます。「私自身が彼女たちのロールモデルにならないと!」という想いで、これからも販売員の支援をしていきます。