「グローバルワーク」や「ニコアンド」をはじめ、約30以上のブランドを全国各地の商業施設で展開する株式会社アダストリア。自社EC「ドットエスティ」の会員数は約1600万人に上り、国内売上高の30.1%はECサイトによるという。
一方で、早くから店頭の販売員の力に着目し、全国のショップスタッフによるスタイリング投稿コンテンツ「スタッフボード」を「ドットエスティ」に導入。実店舗と同様の“新しいものとの出会い”や“ワクワクする購買体験”をECサイトに生み出す仕掛けもおこなっている。
個の魅力を引き出し価値にする、さまざまな施策に取り組む同社では、2022年9月から販売員のキャリア形成と教育・人材育成につながる「キャリカク」というキャリア拡大支援施策を始めた。そこで、同社支店営業本部長兼関東支店長の伊井照さんと支店営業本部マネジャーの小川大介さんにキャリカクの概要や取り組みを始めた背景について伺った。
キャリアを横に広げて活躍の場を増やす
ショップスタッフから一番よく聞こえてくるのがキャリアに関する悩みだ。「販売しかできないから」と販売職をネガティブに捉えてしまう人も多い。でも本当にそうだろうか。
アダストリアのキャリカクは、店長の先のキャリアが見えないという販売職特有の課題に対して、自らキャリアについて考えるきっかけをつくることを目的にスタートした。会社が制度を整えることで、ショップスタッフ自身が早い段階から自分のキャリアと向き合う機会につなげたのだ。
キャリカクに着手した理由を、伊井さんは次のように話す。

「弊社では現在、全国で約1200店舗ほどを展開していますが、数年前から店舗数の増加スピードは変わり、やみくもに出店して売上を増やす時代ではなくなりました。そのため、以前のような早さではポストが生まれない。ブランドにもよりますが、社員になって3年、5年たっても店長になれない場合もあります。ただ今後を考えると以前の形に戻すのは効果的ではありません。販売職のキャリアという観点で考えたときに対策を講じる必要があったのです。
そしてもう一つ、働き方に対して多様な価値観が生まれ、キャリアアップを望まないスタッフが増えている実感がある中、全てのスタッフがやりがいを感じられる、自己実現できる機会を会社として提供する必要があると考えました。
キャリカクは“キャリアを拡大する”の略で、キャリアアップだけではなくて、横に広げることがもっとできないかというのが制度設計の起点です。一人ひとりに適した活躍の仕方があるのではないかと。会社がその機会を用意し、支援することが目的です」
キャリカクで誕生した新しい職種
2022年9月にスタートしたキャリカクだが、現在は「SSC認定講師」「館リーダー」「地域販促」「スタッフボード教育」「商品提案」と5つの職種を設けて、ショップスタッフから希望者を募り選考を行う。販売職+αの役割を担うことで、入社数年のスタッフにも自分の可能性を感じてもらえる環境を整えている。
各職種の具体的な業務内容は以下になる。
SSC認定講師は、同社が実施する接客スキル認定制度「SSC全国選考会」の認定者が講師となって、入社したてのアルバイトに向けた店舗基礎研修を担当する職種。
館リーダーは、複数店舗を出店しているもののSVや支店マネジャーが巡回頻度を高めにくい館に配置され、店長やスタッフの相談役、まとめ役を担ったり、基礎研修などにも対応する役割を果たす。
スタッフボード教育は、同社が取り組みを強化するスタイリング投稿コンテンツ「スタッフボード」に参加したばかりのスタッフを対象に、使用方法など基本的な知識を教える役割を持ち、地域担当を設置している。
商品提案は各スタッフの得意を活かし、地域の特性に合わせた商品を提案する業務を担う。

キャリカクで誕生した新しい職種に就くスタッフは現時点で約50人。中でも、地域のお客様との関係性を深めていく地域販促は希望者が多い。その理由は、同社が16年にスタートさせた、各地に地域のブランドを横串で担当する支店マネジャーを置く「支店制度」の影響もある。
支店制度の開始以来、重点的に取り組んでいる地域施策において中心となって動く支店マネジャーや支店長と共に、店舗を巻き込んで活動を進めていく役割を担うことに魅力を感じるスタッフが多いのだろう。
「地域販促に就いたスタッフは、地域の販促イベントに参加してお客様とのつながりを持つことからスタートしますが、すでに次のステップとして、自らイベントを起案して組み立てるところまで手がけるフェーズに入っています。
またスタッフボード教育に関しては、スタッフボードの殿堂入りメンバーが定期的に開催するリモートでのレクチャー会というのがあるのですが、内容のレベルが少し高く、一定の経験を持つスタッフ向けであるため、スタッフボードを始めて間もないスタッフの教育担当者という立ち位置です」(伊井さん)

人材の可能性を広げ、キャリアに悩まされない仕事に
同社がキャリカクを含むショップスタッフのキャリアに関する制度の検討を始めたのは、21年10月から11月にかけてリモートで行われたタウンミーティングが契機となっている。
タウンミーティングは、役員が全国を回り、支店ごとに店長を集めて成長戦略の進捗を共有したり、現場の意見を直接聞いて役員自ら回答するといった、課題解決に向けたアクション。この中で“今後のキャリア”に対して、現場の店長たちが、悩みや不安、自分の将来に向けた考えを固める機会を持ちたいといった、さまざまな思いを抱えていることを知った。
「話し合いでは『キャリア』というワードがたくさん聞かれました。キャリアについて、“自分自身で考える”側面はもちろん必要ですが、会社として何かできることがあるのではないかと。ある一定の規模の企業になったことで、大きな施策を実行する際の難易度が多少上がった部分はあります。けれども弊社では、まずは“ブランド軸”で会社をつくり上げてきたところに、6年前から支店制度を始めて“地域軸”という新たな運営を取り入れ、ブランドと地域間の意思統一が図りやすくなった、これまでの経緯があります。このこともキャリカクを素早く実現できた背景にあると思っています」(伊井さん)

キャリカクで新しいキャリアを築き始めたスタッフからは、自分のキャリアを広げる機会が得られたことを喜ぶ声が届くそうだ。
「キャリアの課題に対して、何かしなければと思いながらもなかなか実現できないと悩んでいたスタッフも多いようで、キャリカクにはとてもやる気の高いメンバーが集まっている実感があります。特に感じるのは、みんな自分がいる地域が好きで、お店周辺の環境や周囲とのつながりを大事にしていて、『地域を盛り上げたい』『元気にしたい』との思いです。社外的にも、同じ施設内のアダストリアブランドのスタッフが力を合わせて地域を盛り上げている点が注目されているので、ここから実績につながっていけるといいと捉えています」(小川さん)
キャリカクで活躍するスタッフの存在が、店舗にも良い影響を与えていると感じる場面もあるという。
「例えば、商品提案に就いたスタッフが、地域の特徴やニーズに合わせた商品提案ができないかということで、ブランド側と協力してものづくりに関わったケースもあります。入社から数年するとスタッフはいろいろ考え始めるタイミングがあるので、そうしたときに可能性を感じて、視野を広げてもらえるといいと思っています。やりがいを持って仕事に臨むすてきなスタッフがいると、店舗にもその空気が波及しますしね」(伊井さん)
今後は、継続的な施策にしていくために、現在5つある職種に新たなものを追加するのかも含めて運営を検討し、参加するスタッフを増やしていきたいと考えている。
「キャリカクを通して自己実現できる、そう感じてもらえることが理想です。自分の好きな地域で長く働ける環境を整えるために、管理側がいかに仕組みをフィットさせていくか、それがポイントです」(小川さん)
スタッフの自主性を促し、販売職で身につけたスキルを活かして活躍できる道筋を会社がしっかり用意することで、意味のある施策へとつなげていく。
登場した福本亜美さん、小林知樹さんのキャリカクでの取り組みは、アダストリアWebサイトの記事で読むことができます。
「ママ」「店長」「リーダー」、3つの顔を大事にした私らしいキャリア。
https://www.adastria.co.jp/playfashion/people/entry-15664/
「地元を盛り上げたい」の想いが、新しいキャリアをひらくきっかけに。
https://www.adastria.co.jp/playfashion/people/entry-15582/