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働き方デザインでオンワード樫山は何が変わった?多様な販売員が活躍できる環境のつくり方

2025 6/04
はたらく
2025年6月4日
苫米地香織

2025年1月に発表された総合転職情報サイト「マイナビ転職」主催の給与アップ/働き方改善/キャリア支援に取り組む企業を表彰する「マイナビ転職BEST VALUE AWARD」において、株式会社オンワードホールディングスが「アワード大賞」を受賞した。

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働き方改革は社会全体の課題とされている。特にアパレル業界は、コロナ禍で店の営業ができなくなったことをきっかけに店頭の働き方が大きく変わった。オンワードホールディングスでは、コロナ前の2019年から「働き方デザイン」と称して働き方改革を全社で取り組んでいる。そのような取り組みのなか、グループの中核企業である株式会社オンワード樫山 販売人財Div. 販売人財第二Sec.の永富優里さんに話を伺ってきた。

仕組みや制度を変えただけでは意味がない

コロナ前からアパレル業界は、お客さまの買い物の仕方が変わってきたと知りつつ、古い商習慣を変えることができずにいた。オンワードでも旧態依然とした社内環境を課題に感じていたことから、自分たちのありたい姿を話し合い、社内でイノベーションを創出することを目的に「働き方デザイン」がスタートした。

「私が所属しているオンワード樫山では、はじめに店舗を支える本部社員に対して、働きやすい環境や制度を整えていくことを考えました。さらにその制度を使いやすい雰囲気づくりもセットにして活用してもらうことで、この会社で働いてよかったなとやりがいを持て、モチベーションにつなげていくことを目指しました」

話し合いは、課単位のチームごとに実施。あるチームが実際に始めた事は些細なことだった。
例えば、店長不在時に店頭でトラブルが発生し、休日の店長に連絡したり、本部へ連絡しても対応できる人が離席中ですぐに解決できなかったりして、店頭が大混乱するといったことは、現場ではよくある話だ。これを未然に防ぐため、メンバーのスケジュールを共有することを徹底することだった。
スケジュール管理共有ツールはメールソフトに組み込まれているものを利用し、忘れずにスケジュールを入力する。これだけで店頭での混乱を回避することができたのだ。

「きっかけは本部メンバーの『自分たちがどうしたら休みを取りやすい環境を作れるのか』でした。その当時は、店でトラブルが発生するとスタッフは恐縮しながら本部に連絡していました。ですが、スケジュールが共有されるようになり『今日は誰に聞けばいい』と確認でき、安心して連絡できるようになりました。事前に相談ごとがあれば『その日は本部の○○さんが休みだから、いまのうちに連絡しておこう』と、前もって動けるようになり、店側のメリットも大きかったです」

現在でもアナログな方法でスケジュール共有しているところはあると思うが、それだと共有が難しい。誰がなんの業務をしているか把握するのにもデジタルでのスケジュール共有はとても便利だ。いまなら誰に連絡できるかが見える化されるだけで、コミュニケーションがスムーズになり、結果的に働きやすくなる。これこそが本来の意味でのDXだと感じた。

多様なスタッフが集まるチームだからこその制度設計

オンワード樫山は、2021年から新業態としてブランド複合型ショップ「オンワード・クローゼットセレクト」の出店を強化。新規出店だけでなく、百貨店や商業施設内にブランドごとで複数店舗出店していたのを一つの店舗へ統合するというパターンもある。この動きもある意味、「働き方デザイン」から派生したものといっていいだろう。

ブランドごとに出店していた時は1店舗につき4~5人、地方ではとさらに少人数で運営していた店もあったという。それを一つの店にすることで、1店舗当たりのスタッフ数は10~20人に増えて店舗が運営しやすくなった。
また、ブランド複合型ショップは、オンラインも活用しながら便利に買い物したいと思う消費者にとっても買い回りが便利になり、メリットがあった。結果的に働く側にとっても、お客さまにとっても、メリットにある店舗形態になった。

さらに1店舗のスタッフ数が増えた分、多様なファッションスタイリストのライフスタイル、バックグラウンド、働き方が出てきたことで、それに合わせた制度改革も必要に。例えば、店頭での接客だけでなく、SNS発信やオンラインでも活躍しお客さまを集めるインフルエンサースタッフの存在がその一例である。
SNSで活躍する販売員が誕生したことで、新たな役職や制度を整えた企業は多いと思う。特に経由売上に対するインセンティブ制度は各社で考え方が異なる。同社の場合は、インフルエンサースタッフが発信に費やす時間も店頭にはそれをフォローする販売員たちがいることを踏まえ、インセンティブを個人ではなく、店舗につけているという。
店は販売員の個性を活かしチームで売上を獲らなくてはいけないからこそ、インセンティブを個人ではなく店舗にしているところに感心した。

歴史のある企業だからこそ誕生したストアマイスター制度

働き方の多様化に付随し、販売員のキャリアの描き方も業界の課題の一つである。販売は若い人の仕事ではなく、さまざまな世代の販売員が活躍できる環境があってこそ働き方改革である。
同社では2023年から「ストアマイスター制度」を開設。定年を過ぎても活躍しているファッションスタイリストが、長年培ってきた接客スキルを後身へ指導していく役割を担う。

「樫山商店として1927年に創業して今年で98年目になるので、新卒から入社して60歳を過ぎても活躍しているファッションスタイリストがたくさんいます。毎年おこなうストアマイスター任命式では、みなさん、お客さまの前に立つ身として自分に対する意識が高く、私たちも勉強させてもらっています。実績はもちろん、たくさんの顧客を持っている方に、これからもより活躍していってもらいたいと思ってできた制度です」

2025年度ストアマイスター・マイスター任命式の一コマ

販売職は、年齢を重ねてもできる仕事である上に、店舗のほかにオンライン上でも活躍する場が広がり、ライフスタイルによって柔軟に働き方を変えることができる仕事である。誰でも挑戦しやすい一方で、極めようとすると奥が深くてゴールがない仕事でもある。
早々にAIが活躍できるという仕事でもないからこそ、アパレル企業経営者には「どうしたら店頭が常に働きやすくいられるか」を考えていてもらいたい。

永富さんの部署では現在も定期的に働き方についての会議をおこない、ファッションスタイリスト職に関わる制度を見直し続けている。直近でも人事評価制度や給与制度などを改訂。毎年、制度説明会をオンライン上で実施し、スタッフ全員に直接伝えている。

「これまでは各エリアの事業所に店長を集めて制度説明をし、店長たちが自店のファッションスタイリストへ伝えていました。去年からオンラインに変えて、『あらためて制度を知ることができて良かった』とか『会社が私たちのことを考えてくれているんだと感じました』と言われることが増えました。直接ファッションスタイリスト全員に伝える大切さをあらためて実感しましたし、これにより、さらに現場とのコミュニケーションがとりやすくなりました」 いま「働き方改革」はトレンドワードのようになっている。改革はしっぱなしではダメだ。常に見直して、アップデートしていかないと社会と乖離していく。
アパレル業界の第一線にある企業が果敢に取り組んでいる話を聞き、今後もどう更新されていくか注目していきたい。

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苫米地香織のアバター 苫米地香織 Fashion Commune 主宰

FashionCommune 主宰兼ライター
これまで取材してきたアパレル販売員は2000人を超える、日本で一番アパレル販売員を取材しているファッションライター。

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