ファッション・ビューティ業界を中心に、総合的な店舗運営コンサルティングをおこなっている株式会社BRUSHの秋山恵倭子です。
私は複数の海外ラグジュアリーブランドの店舗で40年以上販売に向き合ってまいりました。日本ではトップセールスを走り続け、世界で1位を記録したこともございました。また責任者として、勝てる店舗づくりやスタッフの育成もおこないました。その知見を活かしてBRUSHを設立したのですが、最近残念な声を聞くことがあります。
それは「店長になりたいという人が少ない」という声です。
店長やリージョナルディレクターを経験した私にとっては、自分が仕事に従事しながら成長できる環境に飛び込まないなんてもったいない!という想いしかありません。
そこで、この連載で12回にわたって、店長という仕事の魅力ややりがい、店長を目指す上でどんな力を身につけたらいいのかについてお話しすることにしました。
現在、日本には約800万人の販売員がいます。その中で店長に近いところにいるのであれば、ぜひチャレンジしていただきたいですし、店長は選ばれた人にしかできない価値がある仕事だということを感じてもらえたらうれしいです。
店長はブランドを預かる“社長代理”のような存在
買い物はお客様にとってエンターテインメント。
販売はお客様に幸せを売り、感動を提供できる素晴らしい仕事です。
店舗がブランドの世界観を表現する舞台であるとすれば、販売員はブランドを表現するエンターテイナー。そして店長は、エンターテイナーでありプロデューサーであり、そこでどんなストーリーが展開されるかは店長次第です。
そのぶん、常に可能性にチャレンジしていく前向きさや、信念を持ってやり抜くタフさ、人を育む器の大きさなどが資質として問われますが、裏を返せば店長職に取り組むことで自分も磨かれます。
店長は人(顧客とスタッフ)、商品、数字(売上)を預かり、ブランドの信用を支える責任を担う、つまり“社長の代理”のような存在です。経営者目線でものごとを捉えることが求められるので、仕事に従事しながら多くのことを学べるポジションではないかと思います。
販売職は資格が必要なわけではありませんし、一見誰にでもできる仕事のように見えます。確かに誰でもなれますが、実は非常に奥が深く、知的で感度の高いクリエイティブな仕事です。店長になってお店を運営することは簡単ではありません。お客様と関わり、スタッフと関わり、数字や店舗を管理し、スタッフとチームをつくり上げていかなければならないので、大変なストレスを伴うこともありますが、比例して得るものもとても大きいのです。
コミュニケーション力、マネジメント力、リーダーシップと、鍛えるべきスキルはたくさんあります。けれども自分の在り方一つ、想い一つで、勝てるお店をつくれるのは、店長の一番の魅力だと私は思います。
トライ&エラーを繰り返し、自分が磨かれる
どんなブランドも目指すところは、お客様に商品をお届けし、そのお客様がリピートしてくださり、やがてブランドのファンになってくださることではないでしょうか。 その最前線を預かるのが店舗であり、店長はそのチームを率いるプロデューサーですから、相応のスキルがなくてはチームをまとめられませんし、優秀なスタッフを育てることもできません。……とお伝えすると、「責任が重いし、やっぱり店長にはなりたくない」と思われてしまいそうですが、誰もが初めからそんな立派なスキルを持っているわけではありません。責任が重いからこそ、何度も何度も失敗を繰り返して、真摯に取り組んでいくことで成長していくのです。
きっと販売員の皆さんは、ファッションや接客が好きでこの仕事を選ばれていると思います。私も同じです。けれども、好きなことを仕事にできるケースは、そんなに多くないのではないでしょうか。
お店を預かるということは簡単なことではありません。店長となれば当然苦しさはあります。特に、多くの店長の方々が苦しまれているのは“強いチームづくり”だと思います。
勝てるお店をつくるのはチームの力があってこそ。全員が同じ目標に向かって、それぞれの立場で最大限の努力をする。言葉で言うのは簡単ですが、全員の足並みを揃えるのは並大抵なことではありません。お互いをリスペクトして気持ちよく働ける土壌をつくることが望まれます。店長は、その土壌を根付かせ、チームメンバーの努力に感謝の気持ちを示し、さらにポジティブな動機づけをおこなっていきます。
時代に合わせてファッションは移り変わります。その変化を敏感に感じ取り、売り方も変容させなければ時代に取り残されます。現状維持は後退でしかありません。
常に前を向き、今日やるべきことに一生懸命向き合い、ちょっと頑張ることを続けていけば、将来思ってもいなかった自分がそこにいるように思います。
そういう店長の姿を見て、チームのスタッフに自主性が芽生え、同じ目標を目指して店長を支えてくれるメンバーに育っていきます。
“これでいい”ということがない仕事ですから、いつまでも自分を高めていくことのできる、とても知的で感度の高いクリエイティブな仕事だと思うのです。