今年9月に社名変更した株式会社アンドエスティHDが次のステージに向け、これから事業戦略を発表した。少子高齢化による人口の減少、必要な物やサービスが満たされて「誰もがそこそこ満足している」成熟社会において、ファッション業界はどうなっていくべきか。アンドエスティHDのビジョン説明会から考えてみた。
「マルチブランド×SPA」からプラットフォーマーへチェンジする
アンドエスティHDは、プラットフォーム事業を担う株式会社アンドエスティ、マルチブランド戦略の核となる株式会社アダストリアのほか、M&Aなどを重ねてきたことによりマルチカンパニーとなった。2025年10月15日に開催された「andST VISION CONFERENCE 2025」では、グループ全体の成長エンジンとなるアンドエスティのプラットフォーム事業の戦略を中心に語られた。
アンドエスティが運営している自社ECモール「アンドエスティ」は、2025年9月末時点で会員数2070万人を突破している。25年3月末時点で自社グループが運営する32ブランド以外に、グループ外の27ブランドが出店。今後はこれをさらに増やし50ブランド以上の出店をを目指す。
アンドエスティHD/アンドエスティ木村治代表取締役は「アンドエスティのプラットフォーム事業で流通総額1000億円を達成するにはグループ内だけでは難しい。仲間を増やしていく必要がある。これからは、業界全体でお客さまの生活を豊かにし、ワクワクや体験価値を提供し続けていくために、自分たちがプラットフォーマーになる」と語った。
そして、次のステージに向けて“ファッション業界をコネクトする 競争を超えて、共創する未来へ”というスローガンを掲げた。
ビジョン説明会と同日に、株式会社ユナイテッドアローズが運営する「ビューティ&ユース ユナイテッドアローズ」がアンドエスティにオープンした。この後も株式会社ICLが運営する「アフタヌーンティー・リビング」、株式会社ジュンが運営する「アダム エ ロペ」「サロン アダム エ ロペ」「ロペピクニック」「ビス」「エポール」が出店することが決まっている。
会の後半には、9月下旬にオープンした「ニューバランス」からニューバランスジャパン江川英孝常務取締役、ユナイテッドアローズ岩井一紘OMO本部長、ICL岡本昌和アフタヌーンティー・リビングDiv.ECディレクター、ジュン渡辺明利専務取締役が登壇し、木村代表、アンドエスティ田淵淳也取締役CSOを交えてトークセッションがおこなわれた。
そこで語られたことは、リアル店舗とショップスタッフが存在することの価値。さらに、共創することで自社では気が付かなかった自社の魅力の発見、新たな価値の創造をアンドエスティに期待しているということ。

ブランドとお客さまをつなげるショップスタッフの存在をどう活かすか
現状、自社ECモール「アンドエスティ」もスタッフボードやスタッフボイスなど、スタッフが投稿したコンテンツからの経由売上がほとんどを占めているという。9月中順に実施された原宿の「アンドエスティ トーキョー」での「ニューバランス」ポップアップストアのオープン時に、ニューバランスジャパン社スタッフが作ったディスプレーをアンドエスティ トーキョーのスタッフがブラッシュアップし、売上に貢献したというエピソードが出た。
また、今後は商品ページ下部に表示されるスタッフボードに、アンドエスティの人気スタッフによるブランドミックスの着こなし提案が表示されることになる。これには各社が期待しているようだ。
事実、多くの消費者が服を着る時にいろいろなブランドを組み合わせているのに、これまでオンラインストアではそういった提案があまりできなかった。これはお客さまにとって不都合ともいえよう。出店ブランドも自社以外のスタッフが着ることでブランドの新たな魅力発見や、新たなファンの獲得できるなど、可能性が広がる。
同社の新たなビジョンはとても期待感が高まるところはあるが、一つだけ心配に感じたのはスタッフへの業務負担である。すでに業界内ではSNS発信が仕事の一部となり、本来の接客がおろそかになっているのではという話を耳にすることがある。また、SNS発信が苦手、リアルな接客のほうが得意という販売員もまだまだ多い。そういったスタッフの多様な働き方に対し、どう対応していくのか気になるところだ。
一方で、発信しているスタッフや、これからオンラインで活躍したいというスタッフにとっては絶好のチャンスではあることは間違いない。発信が苦手でも活躍できる環境づくりや育成制度、報酬制度などが整えられていくことも期待したい。
ブランドとお客さまが繋がるにはスタッフの力が重要だからこそ、ブランドもスタッフの魅力を活かせるような仕組み作りをしていってもらいたいと感じた。

質疑応答で木村代表は「ラストワンクリックをどこでするのかを考えていたら、何もできない。アンドエスティの売上が下がる可能性があるかもしれないが、しれ以上にファッション業界を盛り上げていかなくてはならない」と答えた。
矢野経済研究所の調査データによると、アパレル業界の23年の市場規模は約8兆円。コロナ前の市場規模が約9兆円だったことを鑑みると、完全に回復したとは言い切れない。今回発表されたアンドエスティHD/アンドエスティの新たなビジョンがきっかけとなり、業界に変化が起こることを期待している。