「販売員を応援する」をテーマに、販売員時代の思い出や現役販売員へ向けたアドバイスを先輩たちに伺う、このシリーズ。
7人目は、MDアドバイザーとして大手アパレルのオリジナル商品企画の支援やMD指導などに携わり、大手業界新聞にて連載を持っていたこともある株式会社エムズ商品計画の佐藤正臣さんをインタビュー。実はレディスブランドの店頭に立たれていた経験がある佐藤さんに、販売経験がいまの仕事にどう活かされているのか伺いました。
佐藤正臣(さとうまさふみ)
株式会社エムズ商品計画 代表取締役、MDアドバイザー
1995年にアパレルメーカーで物流業務のアルバイトを経験したのち、レディスブランドの店頭で7年間勤務、メンズブランドの立ち上げでMD・バイヤー等を7年間従事。その後、2010年よりフリーランスとして活動開始。シャツメーカーの新ブランド開発企画、大手アパレル会社にてオリジナル商品企画、新規ブランド立ち上げのMD計画などに携わり、4年後に株式会社エムズ商品計画を設立。 現在はリテールMDアドバイザーとして大手アパレルからライフスタイルブランド・スーパーマーケットなど、あらゆる分野のマーチャンダイジング改善に従事。
株式会社エムズ商品計画 https://msmd.jp/
―繊研新聞を読んでいる方には、“マサ佐藤”と覆面レスラーのマスクのキャラクターが登場する連載を書いている人としてお馴染みだと思いますが、どういった経緯でMDの仕事をされているか知らない方も多いのではないかと思います。そこであらためて、どういった経緯でMDアドバイザーとなったのか教えてください。
大学卒業した1995年頃は、いわゆるバブル崩壊後の就職氷河期だったんです。特別にやりたいこともなく社会に放り出された感じで、いろいろなバイトしていましたよ。それこそガテン系のバイトもしていました。その流れで友達から紹介されたのが、アパレルメーカーの物流倉庫の仕事だったんです。強いてアパレル業界を目指していたわけでもなく、もともと古着は好きだったし、興味もあったのでアルバイトを始めました。
物流倉庫での仕事はMDの仕事にも大いに役立ってますよ。特に売れる商品がどういうものかがよく分かる。売れ残ると倉庫に商品が戻ってくるので、「こりゃ売れないわ」とか言いながらセールシールを貼る作業をして、売れる商品と売れない商品を感覚で見極められるようになりました。
―それはすごい!言語化は難しいけど、経験値のなせる技が身についたってことですね。その後は……
物流倉庫での仕事を2年ぐらいした後、社員登用されて販売へ異動になりました。そのメーカーは当時、レディスブランドしか展開していないメーカーだったので、販売時代は本当に苦労しました。「愛想がない」と言われ、レジ操作でミスをしては怒られ、女性客と話すのも苦手だったんですけど、4年後には店長になりました。
販売時代はへこむこともありましたけど、お客さまが来店して直接やり取りし、お金をいただくという経験ができたことは、本当に良かったです。現場にいたことがあるから、こうしてMDの仕事ができているといっても過言ではないです。
接客したくないからバックヤードを積極的に片づけて(笑)、在庫を見ては「これじゃ足りなくない?」と疑問に感じたり、VMDを作って「なんで毎日、店頭変える必要あるの?」と思ったりして。日々「なんで?」と考える癖があったので、疑問に思ったことは実践して、自分なりに答えを出すこともできたんですよね。
―お客さまと接するのは苦手な分、裏方として徹してきたんですね。
結局、店長になって半年くらいで、メーカー初のメンズブランド立上げにMDとして手をあげました。会社も自分もメンズは初めての試みだったので、最初は徹底的にリサーチして、立ち上げてからは地道に頑張っていました。その後、ヒット商品を突破口にしてブランドの認知も高めていくことができ、いまでもそのブランドは健在です。
―それから2010年に独立するわけですが、MD職でフリーランスとは珍しいですよね。
当時はいまよりも謎な存在でしたよ(笑)。だから案の定、挫折をするのですが、その間にMDの師匠にあたる方と出会い、徹底的にしごかれました。
数字は揺るがない
―しごかれたとは具体的に……
師匠からは「良い(商売)感覚を持っているのに無知すぎる。俺の下で働け!」と言われ、1年半くらい弟子として働きました。その行動だけ見ていると“パワハラ”と捉えらかねられないですけど、仕事では徹底的に数字に関するテクニカルな部分を教えてもらいました。例えば、店の売上規模からどのくらいの商品量が必要で、店内のレイアウトとバックヤードの広さはこれくらい必要と計算し、店舗レイアウトを考えたこともありました。
店舗レイアウトも計算で出しただけではなく、実際に販売員が気持ちよく売りやすいことも頭に入れておかなくてはいけないので、販売員時代に接客したくないからといってバックヤードにこもっていたことが役に立ちました。

店舗面積から什器の数、商品量を計算するのもMDの役目
―たしかに(笑)。すぐに役立つ時が来ましたね。
師匠は現場主義の人なので、店の在庫量にしてもデータに基づいて、どれくらいあれば適正なのかと数字で考えることを教えてくれました。この時に「小売りの数字に関しては、銀行員に負けるんじゃねえ」って師匠には言われたけど、そこで気が付いたのが「アパレル業界は数字面を何もわかってない」ということだったんです。
MDの基本の“き”は店頭で養われる
―仰る通りで、販売員も数字に弱いから販売員を選択する人が多いです。特に店長クラスを目指すのであれば、人間性も大切ですが数字面にも明るくないといけないなと思います。
そうですよね。アパレル業界の数字面の弱さに気づいて、仕事で企業のMD支援もしながら、家庭教師のように個別でMDを教えることをし始めたんです。そこで教え子に「マサさん、人に教えるのが上手ですよね」って言われたことをきっかけに、MD人材の育成と企業のMD支援でフリーランスから法人化したんですよ。
とはいっても、法人化してもしばらくは大変な時期もありましたが、自分のポリシーを曲げずに人に褒められたところは素直に受け止め仕事にしていき、自社サイトでMDに関するブログを書き続けていたら、徐々に企業や専門学校から声をかけていただき、いまに至ります。

―販売経験はいまでも大いに役立っていますが、いま販売員の方へこれだけはしっかり身につけておいたほうがいいことはありますか。
やはり、常に数字の動きには敏感でいることでしょうか。売場は常に売上金額はもちろん、客数や客単価、在庫、坪効率といった数字が見える場所なので、現場にいるうちにその感覚をヤシやっておくことです。
例えば、売上の公式というのがあって「売上=客単価×客数」は頭に入れて置いてほしいです。売上をあげるためには、客単価をあげるか、客数をあげるかしかないということです。
あとは、売れ筋商品の立ち位置を具体的に把握すること。特に売上上位ベスト10品番を覚えておく。
こういった自店の売れ筋を覚えておくと、例えば、いつもベスト10に入っていた品番が最近売れていないときは、何かしら店が不調をきたしていることが多いので、そこに気が付くことができるようになります。店で見える数字の動きや売れ筋のちょっとした変化が前兆として現れているのですが、これを教えることができる人は企業の中でも少ないと思います。
―確かにそれは少ないと思います。6月からスタートする教育事業では、そういったことも学べるということですか。
私が担当するMD講義では会計学とかも含めて、MDに必要な数字の考え方とかを教えていきます。
ただ、MDや在庫管理などの仕事には、各企業の独自ルールがあるので、MD講義前半は自分自身が若い頃に教えてもらいたかった基礎的なことを教えていき、後半は受講者の状況を鑑みながらになりますが、MD予算策定・期中運用をするというプロフェッショナルな内容の講義する予定です。


―受講はどんな方におすすめですか。
現役MDの人もいいですけど、最近ブランドを立ち上げたばかりのデザイナー・ディレクター、経営者もぜひ受講してもらいたいですね。販売員の方でMDの仕事に興味がある人にも受講してもらいたいですね。きっと将来いいMDになれる可能性がありますよ。
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