文化服装学院では、毎年2~3月にかけて各学科で卒業制作発表会が行われる。その中でも2月22日に行われたファッション工科専門課程インダストリアルマーチャンダイジング(以下、IMD)科3年の卒業制作発表会で行われる卒業プレゼンテーションは、企業や業界関係者からも注目されている。
企業や業界関係者も注目しているIMD科のプレゼンテーションとは、どのようなものか取材してきた。
現場をよく知る業界のプロフェッショナルが教える学科
文化服装学院ファッション工科専門課程IMD科は、ファッション工科基礎科で1年間学んだ学生が2、3年次に進級可能な4コースの1つ。基礎科で服作りの基礎を学んだ後、服作りだけでなく、ファッションビジネスや商品企画などの実務に興味を持った学生たちがIMD科へ進級する。

「ファッション工科課程に在籍する学生は、高校時代にファッションが好きでデザイナーを志して入学した子が多く、学ぶ過程で才能あふれるクラスメイトの姿を見て『デザイナーにはなれない』と悟り、『企画に携わりたい』『MDになりたい』など希望が細分化し、専攻するケースがほとんどです。中にはデザインよりもパターンを引きたいとアパレル技術科へ進級する学生もいます。
IMD科へ進級を決める学生が多くは、毎年11月に実施している上級クラス見学で上級生たちから授業内容の説明を受け、社会と密接につながる学びができることを知り、関心を持った子たちです。例年、明確なビジョンを持って進級してくる学生も数名おり、そうした学生たちがクラスを牽引しています」
IMD科の学生についてそう話すのは、取材当時の担任であるの澁谷摩耶先生だ。
同科では、服作りはもちろん商品生産の流れがわかる人材を育成するため、繊維メーカーの協力の下、3~6人ほどのグループで新規ブランドの企画提案を行ったり、3年次の後期の授業では自分たちのブランドを企画したりする。このときには、コンセプト設定をはじめ、シーズン企画、投入時期を意識したデザイン提案、サンプルを製作して卒業制作発表会で最終プレゼンテーションを行う。
4年前から、あらゆる分野のリテールMDアドバイザーとして活躍するエムズ商品計画の佐藤正臣さんが、MD論、MD演習・企画の授業を担当することになり、リアルを重視した授業内容へシフト。卒業制作発表会のプレゼンには業界関係者を招いて、現場目線のフィードバックを受ける形式に変更した。

さらに2024年度からは販売コンサルタントの平山枝美さんがセールスワークの授業を担当することになり、顧客視点を軸とした売り場の役割と顧客戦略の分析のほか、3年次のブランド企画ではコンセプトや価格帯、ペルソナ設定を交えた販売戦略について学んでいくことになった。
すぐにでもブランド化できるプロ顔負けのプレゼンテーション
このように、ブランド企画から販売戦略まで実務に基づいた知識が得られるIMD科だが、23年度卒業制作発表会では、8つのチームがプレゼンを実施。
1チームの持ち時間は20分間。ブランドコンセプトからペルソナ、商品構成、ショップイメージ、販売戦略、サンプル商品の説明をするのだが、どのチームのブランドもよく考えられており、あっという間に持ち時間が過ぎる。
会場後方にはブランドイメージに合わせて作られた各チームのブースが設置され、合同展示会のような雰囲気に。ブースも訪れた人に配るステッカーやポストカードなどを用意するチームも見られた。すでにブランドとしてスタートしたチームもあり、別日程で行われた卒業ファッションショーや合同展示会にも出展しているという。

卒業制作発表会に出席した業界関係者たちは一様に、堂々としたプレゼンに圧倒されていた。緻密に練られたコンセプトやMD構成などプレゼン内容を受けて「すぐブランドとして展開できるクオリティ」とフィードバックする人もいた。
「例年実施してきた卒業プレゼンですが、企業の方々から販売戦略に関して指摘をいただくことが多かったので、その分野の強化をするため23年度は平山先生に特別講義をお願いしました。そのお陰でブランド企画における販売戦略分野の強化と顧客視点の考え方が学生たちにも根付いたのではないかと思います」(澁谷先生)

学生たちはこの日を迎えて、ひと安心したところであろう。
発表会の締めくくりの学生代表の挨拶では、「プレゼン準備のために寝てない日もあり、遅刻することもあったけど、良いものを作りたいという気持ちを胸に頑張ってきた」と話した。実際に企業に身を置く人たちからも一目置かれる我が子を見て、会場に見学に来ていた保護者の皆さんも安心したのではないか。
来年も行われるであろう卒業制作発表会に期待したい。