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【先輩の声】吉田直哉さん—人としての成長が未来をつくる。当事者意識で販売職に向き合い自分を高める

2024 4/08
プロジェクト 先輩の声
2024年4月8日
二本木志保

「販売員を応援する」をテーマに、いま業界で活躍する方々に自身の販売員時代の思い出や現役販売員に向けたアドバイスを伺うこのシリーズ。
4回目はFashionCommune内の好評連載「キャリア相談スナックALL IS NEW」の筆者の一人である、株式会社ALL IS NEW代表の吉田直哉さんが登場。転職エージェントとして独立起業した吉田さんに、ご自身のキャリアを振り返っていただきながら、強い人材へと成長するためのヒントを探っていきます。

Profile

吉田直哉(よしだ なおや)
(株)ALL IS NEW代表取締役社長。福島県いわき市出身。大学卒業後、バーニーズジャパンへ入社。販売スタッフとしてキャリアをスタート。その後リクルートエージェント(現リクルート)へ転職し、転職・採用支援をおこなう。退職後は「ファッション×キャリア」の領域を中心に活動。ヘッドハンティング会社でのVice President、スタートアップでの執行役員を経て2021年に㈱ALL IS NEWを創業。人材エージェントのほか、スナックのオーナー、講師、アロハシャツブランドのディレクターなど、何足もの草鞋を履きながら自らが働く楽しさを体現している。東京と福島2拠点でデュアルライフを実践中。
X(@naoya0115BC)https://x.com/naoya0115BC
Instagram(@naoya_yoshida_allisnew)https://www.instagram.com/naoya_yoshida_allisnew

—2021年にALL IS NEWを創業し、転職エージェントを軸に地方創生や講師業など幅広い事業を展開されています。人と人を結び可能性を広げていく取り組みに共感する方も多いですが、そもそもなぜ起業を考えたのでしょうか。

シンプルにお伝えすると、“家族に恩返ししたい”という気持ちからです。福島県いわき市の出身なので、11年の東日本大震災をきっかけにその想いが強くなりました。ちょうど30歳という節目の年齢でもあったし、前年に祖母を亡くして、当時は会社員で最期の瞬間に立ち会うことができなかった苦い経験も重なって。
昔から「プロ野球選手になってたくさん稼いで家族に楽をさせる!」とか、「社長になる!」とか、よくわかってもないのに言ってたのですが、何も返せないうちに祖母が亡くなってしまったことや、震災で家族が全てを失ったときに何もできない無力さを痛感して、自分の名前で看板を立てて稼げるようにならなくてはと考えるようになりました。

—当時はリクルートエージェント(現リクルート)に在籍していたんですよね?

そうです。大学卒業後にバーニーズジャパンに入社して、3年半くらい販売職を経験し、それからリクルートに転職して7年半ほど転職支援に携わりました。
自分としては一生懸命仕事を頑張って成長した気分になっていましたが、一方で、なんとなく「結局リクルートっていう大きな看板がなかったら何もない人間なんじゃないか」と焦りも感じていて。入社5年目の頃に震災が起きたことで、焦りが確信に近くなったんです。
このままだと家族に何かを返せる未来は訪れない、自分の人生だしチャレンジするしかないと思い、個人商店のような働き方ができるヘッドハンティングの世界に飛び込みました。

ALL IS NEWではアパレルブランド「yourmood」も手がける。1stプロダクトは吉田さんの地元、いわき市に由来するアロハシャツ。
キービジュアルはいわきで撮影を行い、ふるさと納税の返礼品にも選ばれた

—ファッション業界から人材業界へと、全くの異業態に転職したときはいかがでしたか。

それが、全く変化を感じなかったんです。販売職でやっていたことを応用したら成果に繋がったというか……。
実は就活の際、ラグジュアリーブランドからも内定を頂いている中でバーニーズに入社したのですが、その理由はブランドに行けば買える高額な商品をわざわざバーニーズで購入するということは、スタッフにかなりの提案力が必要だと思ったからです。お客さま一人ひとりに適切な提案をして、期待に応えることができれば信頼関係を構築できる。入社後はそういう“人間力”を鍛えることを目的にして仕事に臨みました。
だから、リクルートでキャリアアドバイザーになったときにも、洋服が求人情報に変わっただけで、相手の機微を感じ取ってコミュニケーションを図り、安心してもらったり信頼してもらうという本質は同じなので、あまり苦労はしなかったんですよね。おかげで入社半年で新人賞を頂きました。これも販売職の経験があったからだと思います。

—特に販売職の経験で役立ったと感じたことはありますか。

提案に必要な知識を身に付けることを習慣化ができたのはもちろんですが、“結果が早く出る”というのは販売職の魅力であり、すごく良いモチベーションになっていました。
いまの転職エージェント業でいうと、募集や応募が始まって入社に至るまでには数ヶ月の時間を要しますが、販売の仕事は工夫に対する結果がタイムリーにわかる。それに接客=打席に立てる回数が多いということは、経験を積める機会の多さでもあるので、この点は大きいです。
また、商品のプレゼン方法をはじめ、言葉遣いや立ち居振る舞いなども含めて、素敵でかっこいい先輩がたくさんいたので、それを真似て自分なりに工夫していくうちに実績が伴うようになり、自信に繋がったところも良かったですね。
これは、若手の転職支援をする際にもよく話すのですが、若いうちに数多くの経験を積むことが、質にこだわって仕事をしていくようになったときの支えになると思っています。
人と会い続ける体力や物事を吸収する力は、どうしても年齢とともに衰えていくし、自由な時間もどんどん少なくなっていくので、必然的に立てる打席に制限が生じる。すると戦い方を変えていかなければならず、それを考えるときのベースになるのはやっぱり自分の経験にほかならないなと。
過去の体験から、この場合はどうコミュニケーションをとればいいか、さらに質の高い濃い時間にするには何を選択すればいいかといったパターンが見えれば、多少の工程は省略できるようになる。経験のサンプルが多いほど、見出せるパターンが増えるんですよね。

販売職と転職エージェントの経験を併せ持つ吉田さんならではの実践的な講義に対する信頼は厚く、卒業後も続けてコンタクトを取る学生もいる

—そういう少しの意識を持てるかどうかが、その後を左右することがありますね。

連載1回目でも話しましたけど、日付を入れた目標を掲げることが理想に近づく推進力を与えてくれるのと同じで、当事者意識を持って行動できるかは何においても重要だと思います。
自分はそれこそ学生時代から意識していることがあって、それは “抽象度を高めて捉え直す”ことなんです。
例えば、販売職に就いたばかりの頃、高い商品を売ることが苦手だったんですが、それをちょっと客観的に考えてみると「高いと思ってる自分の空気がお客さまに伝わってるんじゃないか」「価格に見合う良いものであると、自信を持って薦められるだけの知識が足りてないんじゃないか」と気づけた。これが抽象度を高めるということです。
その上で、「じゃあ、まずやるべきことは知識を徹底的に入れることだな」「本当に良いと思えたものは高額でも提案してみよう」と、試してみたら売ることができた。一つの成功体験ができると自信が持てる。
この、目的があって仮説を立てて行動に移すという、いわゆるPDCAの思考プロセスが自分の意識に擦り込まれていたのは、何をする上でもかなり役立っていますし、これにより販売職では早いサイクルで小さな成功体験を積み重ねられたので、やっぱり機会の多さは販売職の魅力だなと感じます。

—振り返って、販売職の頃にやっておけば良かったと思うことはありますか。

いち販売スタッフの状況で転職したので、当時は売上しか追ってこなかったんですよね。だから独立してみて言えるのは、“利益を追求する”という観点で数字のデータなり、商品原価だったりを見る、マネジメント視点で売場や仕事を捉えることができていたら勉強になったし、もっと面白かったかなと。
例えば、販売スタッフだったときは「人が足りないから増やしてくれないかな」ぐらいにしか思ってなかったことも、利益という側面から見ると「人を1人増やしたとして利益を出せる売場にできるか」という視点が必要になりますよね。そういう緊張感や危機感を持って仕事に臨めていたら、もう少し成長スピードが早まっていたようにも思います。

キャリアプランが定まっていない人にも気軽に相談できる環境を用意するためスタートした転職サービス「LET」

—販売職からの未来のキャリアが見えづらいという方も多いです。吉田さん自身の経験と、転職エージェントとしての知見を踏まえてアドバイスがあれば。

販売職という職種に未来があるかではなくて、結局“その人に未来があるか”なんだろうなと感じてます。そしてこれは、どの職種、仕事でも同じことが言えると思うんですね。
販売職という仕事は、先ほどもお話ししたように経験を積める機会が多かったり、業務内容が幅広くさまざまな成長の可能性があったりするので、それを意識せずただ仕事をこなす人と、目的を持ってトライ&エラーを繰り返して前に進んでいく人とでは、同じ時間をすごしても大きな差が生まれます。当然、後者にとっては「販売職は未来がある仕事」になりますよね。だから「未来がなさそう」とちょっと受け身でいることは、自分で未来を閉ざしていることにもなるのかなと。
小さいゴールでいいので目標を決めて、そこに到達するのに何が足りないのか、どうやって埋めていけばいいのかを考えていくと、自分の現状もおのずと見えてくるし、目標に向けて仮説を立てて行動してを繰り返すことが習慣化できれば、ビジネスパーソンとしての基礎力も身につく。さらに、分析して解決する力があれば、例えば売上がとれたときには“なんで売れたのか”が説明できるので、再現性が高くなり、他の職種・仕事にも応用が利くようになります。
何かにトライしているときには、それ以外のことが多少おろそかになる時期もあると思いますが、開き直って「いまはここを磨いてるところだから」と割り切っちゃうのも一つです。そうやって少しずつできることを増やしていけば、数ヶ月経った頃には一通りできるようになりますし。
どうしても自分1人ではその意識づけが難しいのであれば、我々のような転職エージェントに話を聞きにいく方法もあります。退職を決める前に、もしかしたら意識一つで大きく現状を変えられるかもしれないので。

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二本木志保のアバター 二本木志保 FashionCommune ディレクター兼ライター

FashionCommune ディレクター兼ライター
演出家・蜷川幸雄氏に師事し、舞台制作からキャリアをスタートさせ、出版・編集の道へ。2019年11月より月刊誌『ファッション販売』の副編集長を務め、現在は編集委員として関わる。趣味は服と美味しいもの探し。

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