「Rakuten Fashion Week TOKYO(以下、RFWT) 2024A/W」が2024年3月11~16日に開催された。今シーズンのランウェイショーでトップを飾ったのは、ユニフォームデザインのプロフェッショナル集団が手掛ける「HIDESIGN(ハイドサイン)」。2023S/SシーズンからRFWTに参加し、今回で4シーズン目となる。
過去3シーズンにわたりテーマとしてきた「Gray-Collar(グレーカラー)」の最終形態となるコレクションを披露した。
ユニフォームの機能美を引き立たせるグレーカラー
「ハイドサイン」は、2005年からマクドナルドやココス、スシローなどの大手飲食チェーン店をはじめ、東京ガスや日野自動車、日本ガイシなど、幅広い業種の企業ユニフォームの企画・デザイン・制作を請け負ってきた企業だ。
テーマの「グレーカラー」には「ホワイトカラーやブルーカラーなどに職業分類されない、業務や区分が明確になっていない労働者」との意味があり、そこから「全ての労働者に最適なユニフォームを。」をコンセプトにブランドを展開してきた。
また、全アイテムをグレー一色に統一することで、ユニフォームにおける機能美をより引き立たせた側面もある。



これまでの3シーズンで、決まったものしか入れられない形状の立体ポケットを身頃のいろいろな場所に付けられるユニークなシリーズや、ギネスブックに掲載されている世界で一番脚の長い人・背の低い人・太っている人・痩せている人という極端な体型に合わせたシリーズを提案し、毎シーズン“全ての人が着られること”を想定した服作りを行ってきた。
今シーズンでは、「Storage」「Transfrom」「Functional revamp」「Costomized storage solutions」の4つをキーワードに、さらに誰もがユニフォームの機能美や機能性の価値を享受できるアイテムを発表。
例えば、難燃性や抗菌効果のある高機能素材を使った、何でも貯蔵(=ストレージ)できるジャケットや、袖を取り外したりドローコードを引っ張ったりすることで変形(=トランスフォーム)するアウターやパンツなどが登場した。



ユニフォームが生まれる現場とは
コレクション発表の数カ月前。「ハイドサイン」を手掛けるハイドサイン株式会社では、ユニフォームが生まれるオフィスのメディアツアーが行われた。
インダストリアルな空間のオフィスは、デザインチーム、パタンナーチーム、サンプル製作チームの3つの島に分かれ、デザインからサンプル製作まで一カ所で一貫して行える環境が整っている。
デザイナー兼ハイドサイン株式会社の代表である吉井秀雄社長を筆頭に、3Dエンジニア、パタンナー、縫製士がユニットになり、たくさんの作業員が着るユニフォームを作り上げる。
この場所で培ってきたユニフォーム製作の技術力が、自社ブランド「ハイドサイン」の強みになっていることがわかる。


ユニフォームは特殊な素材を使用することが多いので、多種多様な生地はもちろん、用途に合わせた特殊ミシンなども並ぶ。ユニフォームには欠かせない“企業ロゴ”を刺しゅうするミシンやアイロンプレス機なども揃っていて、率直に「こんな会社で服作りをしてみたかった」と思うほど、うらやましい環境だ。
また、「川上・川中・川下」と分断されてお互いの技術・情報が相互理解できていない日本のアパレル業界全体の課題も、社内全体で技術・情報を共有し合うことで解決できるのではないかと感じた。

ユニフォームデザインが伝えること
ユニフォームには「その人がどんな職業の人なのかを一瞬で表すこと」と「その職業においての動きやすさや安全性を保つこと」の2つの役割がある。
ハイドサインでは企業から依頼を受けてユニフォームを企画する際、現場で働く従業員たちがどんな業務や作業をしているのか、どんな動作を担うのかをヒアリングし、さらに作業現場も見学してからデザインを考える。
企業としては、全従業員が着用できるようにある程度のサイズバリエーションを揃え、作業中の安全性を保ち、機能的に動けるデザインであることは必要だと考えつつも、製作のコストは抑えたいという思いがある。加えて、一目見ただけでその企業の社員であるとわかるデザインであることも大切なポイントだ。

「ユニフォームデザインは、企業の要望を叶えようとして製作した結果、このデザインになるのです」と吉井社長は話す。
普段着にはないデザインの制限と、機能として必要なデザイン。パッと見ただけではわからない高機能な素材や隠れた構造。その職業の人にしか伝わらない構築的なディテール。それらを誰にでも身近に受け取れるアイテムへ落とし込んだのがブランドとしての「ハイドサイン」だ。
24年秋冬から満を持して、ホールセールをスタートさせる。見ただけでは伝わらない、着ることで初めてメリットを感じることができる服、ユニフォーム製作で培った高機能なアイテムやものづくりを、どうお客様へ伝えていくかがこれからの課題となる。