「販売員を応援する」をテーマに、いま業界で活躍する方々に自身の販売員時代の思い出や現役販売員に向けたアドバイスを伺いました。「販売員時代はポンコツだった」という平山枝美さん。いまとは想像がつかない仕事ぶりですが、ポンコツだったからこそ、いま販売コンサルタントの仕事ができていることが分かりました。
平山枝美
「声かけ、怖いな」「なんで、商品を手に取ってくれないんだろう?」など、お店の悩みを、お客様の立場(顧客視点)で考え解決していく、販売コンサルタント。得意分野はアパレル。接客、売り場づくり、POPのコピーライティング、マネジメントなどを研修やコラムなどを通じて伝えている。
公式ブログ:https://ameblo.jp/jatamansi1012/
―販売コンサルタントとして、今は企業や商業施設の販売員さんに向けた研修など行っていますが、そもそも販売員として働こうと思った経緯は?
学生の頃は取り立てて何かになりたいというのがなく、成り行きで販売員になりました(苦笑)。子供の頃に図書委員をやって楽しかったことを思い出して、図書館司書を目指しましたが就活でその道は狭き門だというのが分かり、「こりゃ無理だ!」とすぐに諦めてしまいました。
次に好きなものは何かな?と考えたときに、親がお裁縫していたのを真似て、高校の文化祭で衣装を作ったことを思い出して、アパレル業界も良いかなと。ただ、販売員になったとして「私は服をきれいにたたんで袋詰めできるだろうか?」と思ったんです。それくらいポンコツで自分に自信がありませんでした。
―まあ!いまの活躍からは想像できないですが…
とにかく自分に自信がなくて、就活ではやりたい仕事よりできそうな仕事はないかと思っていたほどです。どんな仕事であっても、入社できたら人並みには仕事ができるようになろうと、それだけは決めていました。
―それであるメーカーに入社されて、初めて接客販売をしましたがその時の感想は?
はじめてインターンで店頭に立った時は、その場にいることに必死で早く時間が経たないかと思っていました。何をしたらいいか分からないし、何も考えられなくて、挙句の果てには店長に言われて、お客さまに声がけしなきゃいけないんだ!と思い出すくらい(苦笑)。
―マイナスからのスタートですね(苦笑)。
よく会社は採用したと思います。当時は母を真似てお裁縫していた程度で、服が大好きという感じもなかったので店頭で接客を受ける経験もあまりなかったんですよね。
―それが返って良かったのかもしれませんね。コアなファッション好きとは違う視点があるから、いまの仕事ができているんだと思います。そこからどうやって人並みに仕事ができるようになったのでしょう?
とにかく教えてもらったことを素直に実践していました。例えば伝票の書き方は教えてもらったら一発で覚えるとか、ココだけはちゃんと抑えておこうという仕事はやらないとダメだと追い込んでいました。先輩たちも「教えればできる子だ」と理解してくれて、一生懸命教えてもらいました。それで大体80点くらいの仕事はできるようになったと思います。特に「将来は店長になるんだ」という目標もなく、ただ一生懸命に仕事をしていたら2年目の後半には予算達成率で1位になっていたんです。
―それはスゴイですね!
金額ではなく、達成率ではありますがうれしかったです。
―それから、たまに話題に上がる暗黒の店長時代に突入するんですね。
そうです。入社3年目で、店長になる前にVMDという仕事をしていたので、ここで店長を経験しておこうとなりました。その店は都心の観光地にある商業施設の新店で、お客さまも来るだろうと見越していたんですけど、全くでした。あまりにも辛い経験でしたけど、そのおかげで今があるといっても過言ではありません。あの店で店長をやって良かったです。
よく「店長はやりたくない」という販売員さん多いですが、個人的にはやったほうがいいと思います。店長をやったおかげで、今の仕事ができています。
―その時代で一番印象深いのは?
店長1年目はとにかく厳しい店長でした。スタッフの接客まで気になって口出しして、極めつきは閉店後に「ロープレやるよ!」とかいって、最低な店長ですよね(苦笑)。それで7月のセールが終わる頃には全スタッフが辞めて、総入れ替えし、その後もそんな感じだから常に人が入れ替わっていました。
最終的にはだれも来てくれないような状況になり、インターンが来たのですが本部から「絶対にやめさせないように」と釘を刺されて、ようやくスタッフを仲間にするということに目覚めました。店はスタッフと協力して作るものだと分かってから、スタッフに仕事を任せられたし、休日に「今日の売上いくらだった」とか電話することもなくなりました。

―電話までしていたんですか?
店長会などで本部に出入りしていると、社内で店舗のことを陰口とまではいかなけれどチクチクと言っているのを耳にしていたので、そんなことだけは言われたくないとプレッシャーがあったんですよね。
―それから今の仕事へ、どう繋がっていくのでしょう?
きっかけは、本社が接客講師を招いて研修をするようになったことです。エリアマネージャーが講師から直接研修を受けて、それを店長たちへ教えるという仕組みで、みんなが理解していく表情を見ていて、こんな仕事の仕方もあるなと思ったのです。
ただこの時、小さい会社コンプレックスがあり、大手で経験を積もうと転職したんです。結局は、大手でも小さい会社でもやっていることは変わらない、ということが分かりました。
―取材でもよく聞きます。必ずしも大手が良いということもないですよね。小さい会社のほうが早くからいろんな経験ができますし。
そう、それが自信になって講師やっていけるかもと思いました。30歳という節目でもありましたし。ただ「講師業始めました」といっても仕事は来ないので、講師になるための研修を受けたり、講師のアシスタントになって仕事をもらったりしていました。
あと加えて二つのアクションも起こしました。一つ目は接客の事をひたすらブログに書くこと。もう一つはアパレルに特化した講師はたくさんいたので、違う業界の事も知っておこうと思い、大手のライフスタイルブランドでアルバイトを始めたんです。
自分が販売員だった時は接客が上手になるための情報はほとんどなく、知りたくても知るツールがなくて困っていたので、私がそれまでやってきて上手くいった事をひたすら書いて販売員に知ってもらえればと……。おかげさまで営業をすることなく、ここまで来ることができました。
アルバイト先はブログのネタ探しも兼ねていましたが、ブログを通じで仕事が来るようになるころにその会社でも研修講師を探していて、私が勤めることになりました。
―販売員時代にメモを書いてことが繋がってくるんですね。いまは書籍も出して、本に関わる仕事もできているし、企業だけでなく、最近は専門学校で学生さんも教えているそうで……。
そうなんですよ!売場が可能性をたくさん秘めた場所だと感じてもらえればいいなと奮闘中です。
―ここで現役販売員やこれから販売員を目指す方に、仕事をする上でのアドバイスをもらえますか?
販売員のキャリアというと、マネージャーになる、プレスになる、本社勤務を目指したり、フリーになったり、いろいろありますが、その際に一度、自分や身の周りの人、例えばお客さまや一緒に働くスタッフ、店長など、いろんな人を知ることから始めてみてほしいです。ただ闇雲に悩んでいる人が多いので、まずは自分の周りにどんな人がいて、どんな関係性で、どんな話をして、など一旦整理してみてください。その時は必ず紙に書きだすことです。さらには自分がいま何に悩んでいるのか書き出してみる。書き出すと一旦目の前の不安から離れることができます。私はそうやって切り抜けてきたので、ぜひやってみてください!
―私もよく一人会議と称してやっています。では、これからの目標とかありますか?
私は「世の中のお買い物が楽しくなれるように」と思って仕事をしてきたので、これからもそうなるように。これは目標というか、仕事の大義名分として、販売員の皆さんが自信を持って「販売員をしています」と言えるような世の中にしたいです。
これは私が経験したことで、親戚に仕事のことを聞かれて「販売員です」と答えたら、変な空気になったことがあり、販売も立派な仕事なのに何でそう思われるのか、悲しい気持ちになりました。

―取材でも似たような話をよく聞きます。親から服飾専門学校に行くのを反対されたという学生さんとか、販売職は技術だけでなく、気遣い、コミュニケーション力が求められ、心理学的要素もある素晴らしい仕事だと思うのですが、誰でもできる、アルバイトでする仕事だと思われていますね。
あとはネットや雑誌などで、コーディネートの仕方とか情報がある程度知れ渡っているから、自分で何とかなると思っている人も多いですね。でも実際には何とかなっていなくて、オシャレ迷子になっている人が多いと思います。
その一方で、販売員が必要とされる仕事をしているかを見直す必要もあると思います。販売員を『ファッションアドバイザー』と呼ぶ企業がありますが、本当にアドバイスできていますか?と思います。企業はアドバイスできる人を育てないといけません。
新人の頃、日々接客していると、お客さまから無視されたり、軽くあしらわれることがあったり、全く信用されず、疎外感がありました。どうしたらお客さまから慕ってもらえるかと考えていた頃に、先ほど話した親戚の一言があったので、本当にショックでした。
―生活にとって欠かせない衣食住の「衣」を司る大切な仕事なんですけどね。確かにそれに似合う仕事ができているかと言われると、それに及ぶ人は少ないかもしれません。
そうなんです。販売のプロとして扱って欲しいですし、プロとして認められるスキルを持つ必要もある。ただ肯定してほしいのではなく、それに似合う自分になることも大切です。その為にも、企業の上に立つ人の接客への考え方をアップデートしてもらいたいです。顧客視点で売り場を見ていない上層部と現場の歪みを改善したいというのが、これからの私の仕事の一つだと思っています。